トレーラーのトラクター（前方部分）は、荷台付きとそうでないタイプの2つに分かれます。運転のしやすさや操作に違いが生じるため、購入前に確認した方が良いでしょう。今回は、荷台付きのトレーラーの種類や特徴、寸法、連結方法などを解説します。
目次
トレーラーは荷台付きとないタイプに分かれる
一般的に、トラクターとトレーラーが連結した状態をトレーラーと呼びます。トレーラーは寸法や構造ごとに分かれ、代表的なものはセミトレーラーやフルトレーラー、ポールトレーラーなどです。 車種ごとの大きな違いは、荷台の有無です。セミトレーラーは荷台がなく、フルトレーラーやポールトレーラーには荷台があります。
セミトレーラー：荷台なし
セミトレーラーのトラクター部分には荷台がなく、被けん引車両を引っ張る役割のみ有しています。けん引されるトレーラー自体が荷台の役目を果たしているとも言えるでしょう。 セミトレーラーの場合、トレーラーが前輪を持たないため、単体では走行できません。トラクターに背負われる形ではじめて、貨物の運搬を行うことが可能です。 ちなみに、補助脚（ランディングギア）が備わっていれば、トラクターとの連結を切り離してもトレーラー単体で自立できます。
フルトレーラー：荷台あり
フルトレーラーはトラクターが荷台を有しており、トレーラーとの連結を解除しても、トラックのように貨物を運搬できます。 トレーラーの軸が2つ以上あり、荷重のほとんどをトレーラー自体で支えられることも特徴です。フルトレーラーは、車軸の位置でドリー式とセンターアクスル式に分類できます。 ドリー式は前輪台車とトレーラーを連結させた構造で、センターアクスル式は棒状の連結器を、トラクターの後方に差し込んで連結を行います。
ポールトレーラー：荷台あり
ポールトレーラーは荷台の長短を変えられる構造を持つ特殊車両です。主に鉄道車両や鋼管といった長尺で折り曲げることが難しいモノの運搬に使われます。 フルトレーラーと同様、トラクター部分に荷台があるタイプも存在します。荷台付きのフルトレーラーは一見すると大型トラックのように見えますが、パワフルなエンジンやラジエーターを装備していることが特徴です。 また、荷台の有無に関わらず、ターンテーブルを装備しています。車体の向きが急激に変化しても、トレーラーの貨物に影響が生じにくい点がメリットです。 トレーラーの荷台の寸法について詳しく知りたい方は、次の記事をご覧ください。 「トレーラーの荷台寸法/全長/車両総重量/最大積載量/構造を解説」
トレーラーの寸法・全長規制
トレーラーで荷物を運ぶ場合、できるだけ車体が大きい方が良いと考えるかもしれません。しかし、トレーラーの寸法や全長には制限値が存在するため、基準を超過してはいけないルールになっています。 フルトレーラーの全長上限は最大で25m、セミトレーラーは最大で18mです。ここではトレーラーの寸法・全長について、上限値や改正点などを紹介します。
フルトレーラーの全長は最大25ｍ
フルトレーラーは、連結時の全長が最大25mまで認められています。大型トラックに換算すると、おおよそ2台分の長さです。 従前は21mが全長の上限でしたが、国土交通省の規制緩和を受け、2019年以降25mまで伸びました。 この連結規制の緩和は、ダブル連結トラックの導入が主たる目的です。ダブル連結トラックは1台で10tトラック2台分の輸送を行うことができます。 ドライバーの省人化や二酸化炭素の排出量削減に効果的で、生産性の向上を目的に、導入が決定されました。
セミトレーラーの全長は最大18ｍ
セミトレーラーの場合、原則として全長の上限は16.5mですが、特別車両運行許可を取得すれば、最大で18mまで伸ばせます。 従前まで上限は17ｍだったのですが、2015年の道路運送車両の保安基準改正によって、18mまで認められるようになりました。上限規制が緩和されたことで一度に積める貨物の量も増えています。 ダブル連結トラックの導入も合わせて、近年、セミトレーラーの寸法・全長規制において大きな変化があったことが分かるでしょう。 トラクターの全長は原則12ｍまで トレーラー部分に限ると、全長のMAXは12mまでです。ただし、特例8車種に該当するセミトレーラーは、連結ピンから車両最後部までの長さが13mまで認められます。 特例8車種とは、以下に該当するセミトレーラーやフルトレーラーのことです。
- バン型
- タンク型
- 幌枠型
- コンテナ用
- 自動車の運搬用
- あおり型
- スタンション型
- 船底型
これらの車両は荷物の落下を防ぐために十分な強度や装置が備わっているので、制限を緩和して、運搬できる量を増加しています。 参考：全日本トラック協会｜トレーラーの大型化による輸送効率化促進ハンドブック
トレーラーの連結方法は荷台の有無で異なる
トレーラーの連結方法は荷台の有無、つまりフルトレーラーかセミトレーラーのどちらかによって異なります。 連結に使用する部品に差異があり、荷台ありのフルトレーラーで用いられるのは、ピントルフックとルネットアイというものです。荷台がないセミトレーラーで使われるのは、カプラーとキングピンです。
荷台あり：ピントルフックとルネットアイで連結
荷台付きのフルトレーラーは、トラクター後方部のピントルフック（連結器）で、トレーラー前方のルネットアイを挟み込んで連結します。 この連結方法では、走行時に前後方向の揺れが生じる可能性があります。衝撃を吸収し乗り心地を向上させるため、またルネットアイの摩耗を防ぐため、隙間をゼロにすることを目的に、エアチャンバで圧をかけるスタイルが主流です。
荷台なし：カプラーとキングピンで連結
トラクターに付属の、台座のような形状をしたカプラー（連結器）と、トレーラー側のキングピンを嚙み合わせることで連結します。 カプラーは噛み合わせの際にピンをスムーズに挿入するため、V字状の切れ込みが入っています。シンプルな構造でありながら、非常に高い強度と耐久性を備え、重量物のトレーラーをがっちりとけん引することが可能です。 カプラーとキングピンが噛み合った後は電気ケーブルとエアホースを連携して、接続完了です。
荷台の有無によるトレーラーの違い
荷台付きのトレーラーは曲がる際に車体が広がりやすいため、事故が生じる危険が高いです。運転時は、とりわけ注意が必要といえるでしょう。 また、荷台があるトレーラーは回送中、切り離したトレーラーを荷台に積むことが可能です。これは荷台なしでは得られない特有のメリットです。
荷台あり：事故が生じる危険が高い
荷台付きのトレーラーは、カーブを曲がる際にトレーラーの前方部が大きく旋回し、道からはみ出てしまう可能性があります。 また貨物積載時とそうでない時で、車重のバランスが大きく変わることも特徴です。例えば、特に重い鉄道車両や鉄鋼素材を運搬する時は、後ろから付いてくる感覚に襲われ、ハンドル操作を誤りやすいです。 操作を誤ってしまうと、ジャックナイフ現象やトレーラースイング現象を誘発し、事故を引き起こす危険もあります。 ジャックナイフ現象とは急ブレーキや急ハンドルをかけた際に、運転席と荷台が九の字状に折れ曲がってしまう現象です。 急な方向転換によってトラクターヘッドが曲がっても、荷台は付いていけず直進を続けようとするため起こります。追突や衝突などの悲惨な事故を招く危険があるでしょう。 またトレーラースイング現象とは、トレーラーの後輪がロックすることで、車体が野球のバットスイングのように回転してしまう現象のことです。
荷台あり：回送中はトレーラーを荷台に積むことも可能
荷台ありタイプは、使わない時にトレーラーを荷台に乗せてそのまま運搬できます。回送中も長大なフルトレーラーを運転していては安全面で不安があるため、できる限り車体を短尺に変えたいところです。 トラクターとトレーラーを切り離せば、容易に車体をコンパクトにできます。荷台があると単体で運搬車両として活躍してくれるため、非常に利便性が高いでしょう。 荷物の種類や量に応じて、トラクター単体で走行するか、フルトレーラーでいくのか決めることが可能です。
荷台なし：回送中はドローバーでトレーラーを固定して走行
荷台がないタイプはトレーラーの運搬が不可なので、運送中と同様、ドローバーを固定した状態でけん引します。 運送中も回送中も車両構造には変更がないため、運転操作では少し苦労するかもしれません。 鉄道車両を運ぶポールトレーラーの場合、港から車両基地までの搬送を担います。この陸送は渋滞を避けるために、基本的に深夜に行われるそうです。誘導車両も前後に付いてくれるため、思わぬ事故が生じる危険は低いといえるでしょう。
車軸の位置・数によるトレーラーの違い
車軸の数の数え方は、トレーラーを横から見た時のタイヤの数で決定します。簡単に言えば、軸数が多い方が支える土台が増えるので、より多くの荷物を積載できるという特徴を有します。 車軸は、トレーラーのパワーを生み出す原動力となる部分です。したがって車軸が多いと、それだけエネルギーを消費します。
二軸トレーラーはコスパに優れる
二軸トレーラーは汎用的で販売量も多く、オーソドックスなタイプだといえます。タイヤの数が比較的少ないため、維持費を抑えられ、コストパフォーマンスが高いのも強みです。 ちなみにトラクターの軸数は、駆動力の強弱に密接に関わっています。トレーラーを引っ張るトラクターの駆動力の源泉は駆動軸のタイヤなので、車軸が多いほどパワーは増すと考えられます。 強烈なパワーで未舗装路や雪道といった悪路でも、走破できる可能性が高いです。ただし、一軸型と比べてタイヤが多い分、車両の重量が大きくなります。したがって燃費の悪化を招きやすいでしょう。 一軸トラクターはその逆で車体が軽く、走行性能や低燃費といった特徴を有します。タイヤの数が少ないためトラクターに必要なけん引能力の低下を招き、接地抵抗の少ない道路の走破が難しくなってしまいます。
三軸トレーラーは最大積載量が多い
二軸トレーラーと比べて、三軸トレーラーは最大積載量がグンとアップします。単一の車軸にかかる荷重が規定値を超えてはならないこととのルールがあるため、車軸の数が多いほど、積載量が増えるといえるでしょう。 また三軸タイプは二軸よりもタイヤの径が小さく、床の位置が低いことが特徴です。床が低くなると貨物体積がアップするため、積載できる貨物量は増えます。 トレーラーには高さの制限があるため、床が上にある程、最大積載量においては不利に働くでしょう。高さのある貨物を積める確率も高まるので、積載量を突きつめたければ、低床の三軸トレーラーが適しています。 特殊な用途に使われる三軸以上のトレーラーはさらに低床で、よりたくさんの荷物を積むことが可能です。
トレーラーの運転に必要な情報
業務でトレーラーを扱う場合、トラックとは異なる部分にも注意を向ける必要があります。まず知っておいてほしいのが、普通運転免許だけでは運転ができないことです。 被けん引車両のトレーラー部分があるため、運転免許以外にけん引免許の取得が求められます。免許を取得して晴れて業務で大活躍といきたいところですが、残念ながらそう上手くはいきません。 トレーラーは独特の動きをするため、特にバック時の操作が難しいです。ここでは、トレーラーを上手に扱うために必要な情報を1から解説します。
大型免許とけん引免許の2つが必要
被けん引車両を伴うトレーラーを運転するには、自動車運転免許以外に、けん引免許の取得が求められます。 順を追って説明すると、まず多くのトレーラーは大型車両に含まれるため、大型免許の取得が必要です。具体的には車両総重量が11t以上、最大積載量6.5t以上の車両が対象です。 2022年6月現在、大型免許の取得条件は「19歳以上かつ普通運転免許の保有歴が1年以上」となっています。以前は21歳以上で、運転経験が3年以上あることが条件でしたが、道路交通法が改正されて基準が緩和されました。 次にけん引免許ですが、被けん引車両の重量が750kgを超える場合に取得が必要です。業務でトレーラーを使う際は750kg未満では十分とは言えないので、基本的にはけん引免許も取らなければならないと考えましょう。 けん引免許は年齢が18歳以上であれば、取得可能です。ただし、そもそも補助的な免許なので、車両の区分に応じた自動車運転免許の保有が前提になります。つまり大型免許を取得した後に、けん引免許の取得を目指すという流れです。 大型免許・けん引免許に共通するのは、視力や聴力、身体障害の有無など一定の身体条件のクリアが求められることです。例えば、視力は両目が0.8以上、片目がそれぞれ0.5以上の視力が必要となります。
バックは小刻みに修正しながら
車体が長いフルトレーラーに顕著に起こる現象が、バック時に車体が曲がってしまうことです。まっすぐ下がっていたつもりなのに、左右どちらかにずれてしまう事態を招きやすいです。 全くズレないようにするのは熟練の達人でもない限り難しいため、曲がった車体をどのように修正するか知っておくことが重要だといえます。 バックで注意すべきは、トレーラーの最後尾がどのような動きをしているかという点です。サイドミラーの活用や目視によって、常に最後尾を確認しながら動かしていきます。 進みたい方向と異なる向きに動いている場合、小刻みな修正が必要です。ハンドル操作が大きくなってしまうと、修正舵がなかなか見つかりづらく、蛇行が生じやすいでしょう。 また、被けん引車両をバックで動かしたいなら、普通車両の操作とは逆向きにハンドルを回す必要があります。まずは車両の構造を知り、こう操作すればこう動くということを把握しなくてはなりません。 トレーラーを上手く操作するためのコツは、トラクター全体を普通車の前輪だと思って操作することです。車輪はトラクターにしか付いていないため、トラクター側でハンドルを切っても、後方のトレーラーは異なる動きをします。 具体的には左右に折れが生じるので、小刻みな修正で折れを徐々になくしながら、まっすぐバックしていきます。
トレーラーの購入時は荷台の有無も確認しよう
トレーラーを購入する際は、前方のトラクター部分に荷台が必要かということを考えましょう。荷台があるタイプがフルトレーラー、荷台がないタイプがセミトレーラーです。 荷台があると、トレーラーと切り離しても運搬車両として使用できたり、トレーラーを荷台に乗せて運んだりできます。 荷台付きは使い勝手に優れているといえますが、車体が長く運転時の危険が増すのがデメリットです。連結方法や車軸数なども考慮し、荷台ありとなし、どちらのトレーラーが必要か納得いく判断をしましょう。
