物流業界はドライバー不足に悩まされている企業が多いといわれていますが、現状や今後の展望はどうなのでしょうか。
今回は、ドライバー不足や2024年問題について解説します。業界の置かれている環境や今後の企業がとれる対応策についても解説するので、ぜひ確認してみてください。
目次
物流業界はドライバー不足に悩まされている
物流業界は、ドライバー不足に悩まされています。国土交通省の「物流を取り巻く現状と課題」によれば、トラックドライバーの有効求人倍率(有効求職者数に対する有効求人数の比率)は2022年8月時点で2.08と、全業種1.18に対して2倍近い水準です。
有効求人倍率とは、有効求職者に対しての有効求人数の割合であり、倍率が2であるということは1人の求職者に対して、二つの求人がある状況を指します。このため、トラックドライバーは他の業種よりも求職者に対する求人の数が多い状況です。
このようなドライバー不足に対して、国もさまざまな施策で対応していますが、ECなどの普及により配送物が多くなり、配送物の小口・多頻度化が進み、ますます配送需要が増加すると予測されています。
トラックドライバー不足の主な原因
トラックドライバーは、なぜ不足しているのでしょうか。ここでは主な要因を6つご紹介します。
ドライバーが減少している
日本では生産年齢人口(15歳から64歳の人口)が減少しており、それにつれてドライバーの数も減少しています。
内閣府の「高齢社会白書」によれば、生産年齢人口は1995年のピークである8,716万人から、2020年には7,509万人まで減少しました。そして、出生中位推計によると、将来の生産年齢人口は2032年には7,000万人を割り、2040年には6,000万人を割ると予想されています。
参考:内閣府「日本の将来推計人口(令和5年推計)結果の概要」
また、複数の省が合同で発表している「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によると、ドライバーは1995年の980万人から2015年には767万人まで減少しました。そして、ドライバーは2030年には519万人まで減少することが予想されています。
ドライバーが減っている要因としては、生産年齢人口の減少のほかに、賃金報酬が業務内容に見合っていないなど、ドライバー業界の労働環境も関係しているといわれています。
ドライバーの平均年齢が上がっている
前述した有効求人倍率の高さからも伺えるように、トラックドライバーは求職者がなかなか現れない状況にあります。そのため、ドライバーの平均年齢は上昇傾向にあります。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、全産業の2021年の平均年齢は43.4歳であるのに対し、国土交通省の調べによると、大型トラックのドライバーの平均年齢は49.9歳、中型・小型トラックのドライバーの平均年齢は47.4歳です。
ドライバーは65歳以上の就業者の割合が低いため、対策を講じなければ定年退職によってドライバーの担い手が減少すると予想されます。
配送需要が増加している
ECなどの普及による配送物の増加、配送物の小口・多頻度化による配送需要の増加もドライバー不足の原因です。
経済産業省の「電子商取引実態調査」によれば、2022年の物販系分野のBtoC-EC(消費者向けの電子商取引)の市場規模は、13兆9,997億円となっており、2013年から市場が拡大し続けています。
このようなEC市場の拡大により、消費者向けの配送物は増加しました。また、配送物が小口、多頻度化したことで配送需要の増加にもつながっています。国土交通省の「宅配便等取扱実績」によると、2010年の宅配便取扱個数は32億1,983万個でしたが、2015年には37億4,493万個となり、2022年には50億588万個に達しています。
ドライバーの人手が減少傾向にあるにもかかわらず配送物が増加傾向にあるため、ドライバー不足に拍車をかけている状況です。
女性ドライバー人口が少ない
ドライバーは、他業種ほど女性の活躍が進んでいません。女性ドライバーの人口が少ないことも、ドライバー不足の一因になっています。
総務省の「労働力調査」によると、2022年における「運輸業・郵送業」の雇用者数は337万人で、そのうち女性は76万人と報告されており、全体に占める割合は約22%となっています。対して、全産業の雇用者数は1億1,038万人で、そのうち5,711万人が女性であり、全体の半数以上を占めています。
参考:総務省「労働力調査(基本集計)2022年(令和4年)平均結果の要約」
また、運輸業の中でも、ドライバーとして雇用されている女性はさらに少ない割合になります。静岡県トラック協会の2023年の調査によれば、ドライバーは男性が95.3%であるのに対し、女性は4.7%でした。男性ドライバーに比べて、女性ドライバーは極めて少ないことがわかります。
参考:一般社団法人静岡県トラック協会「ドライバーの雇用状況調査結果」
労働に対する賃金が見合っていない
ほかの産業に比べ、賃金が低く労働環境が劣ることもドライバー不足の原因です。
経済産業省などが発表した「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」によれば、トラックドライバーの年収は、全産業平均(489万円)よりも5%から10%低い水準です。大型トラックのドライバーであれば平均年収は463万円、中型・小型トラックのドライバーであれば平均年収は431万円となります。
また、トラックドライバーの労働時間は長い傾向にあります。全産業の平均労働時間は2,112時間です。一方で、トラックドライバーの平均労働時間は大型トラックであれば2,544時間、中型・小型トラックであれば2,484時間と、2割程度高い水準です。
このような待遇や労働環境が、新しい担い手が見つかりにくい状況を生み出していると考えられます。
運転免許制度改正による影響
運転免許制度の改正も、ドライバー不足の原因です。
2017年3月に改正道路交通法が施行され準中型免許が新設されたことに伴い、各免許で運転できる車両の最大積載量・最大重量などに変更がありました。その結果、改正後に普通免許を取得した場合には近距離輸送でよく使用される2トントラックが運転できなくなったのです。
準中型免許を取得していなければ2トントラックが運転できなくなったことも、ドライバー不足に拍車をかけました。
2024年問題がドライバー不足にさらなる影響を与える可能性がある
ドライバー不足に大きく影響すると注目されているのが、「2024年問題」です。ここからは、2024年問題について解説します。
2024年問題とは
2024年問題とは、「働き方改革関連法」の改正によりトラックドライバーの稼働時間が短縮されて、さらに輸送能力が不足してしまう可能性がある問題です。この問題に影響する改正内容は以下のとおりです。
・時間外労働の上限規制の適用(年間960時間)
・改正改善基準告示
この問題に対して対策を行わなかった場合には、トラックの輸送能力が2024年には14.2%不足し、2030年には34.1%不足すると試算されています。
働き方改革関連法の具体的な改正内容
ドライバーに関連する「働き方改革関連法」の改正内容は、2項目あります。
2024年4月から、業務の特性や取引慣行の課題から設けられていたドライバーの時間外労働の上限規制の猶予がなくなりました。特別条項付きの36協定を締結する場合において、ドライバーの年間の時間外労働は年間960時間が上限となります。
そして、長時間労働を防ぐため、労働条件の向上を目的とした拘束時間(労働時間と休憩時間)の上限や休息期間(使用者の拘束を受けない期間)、運転時間などについて基準などが設けられました。つまり、長距離ドライバーなど長時間拘束を受ける業種は、稼働時間を減らすように調整が必要です。
2024年問題がドライバーや企業に与える影響
2024年問題は、ドライバーや荷主となる企業、消費者にどのような影響を与えるのかそれぞれ確認していきましょう。
トラック事業者への影響
ドライバー一人ひとりの稼働時間が制限されるため、トラック事業者の輸送能力が低下し、売上や利益が減少する可能性があるでしょう。とくに、2024年問題は長距離の物流に影響すると考えられます。
いままでどおりの輸送を行うにはドライバーの増員が必要となりますが、ドライバー不足の中、新たなドライバーの確保は困難です。そのため、配送需要に応えきれなくなる可能性が高いです。
荷主への影響
通常、商品やサービスの価格は需給によって決まるため、配送需要に対して輸送能力の供給が少なくなれば運送料金が上がる可能性があります。運送料金が上がれば、コストが上昇した分だけ利益が少なくなります。そうなれば、商品やサービスの値上げを検討することにもつながるでしょう。
また、トラック事業者の輸送能力が低下すると、配送を断られたり配送遅延が起きたりする可能性があり、ビジネスチャンスの喪失や顧客満足度の低下にもつながりかねません。
消費者への影響
消費者は、商品の受け取りに時間を要するようになるでしょう。翌日配送のサービスが受けられなくなったり、物流網の弱い地域では鮮度のよい生鮮食品が手に入らなくなったりする可能性があります。
また、運送料金の値上げに伴い、EC市場の価格が全体的に上がる可能性もあるでしょう。
時間外労働の割増賃金率増加も影響
2023年から施行された中小企業への時間外労働の割増賃金率増加の適用も、2024年問題につながる影響を与えています。
これまで時間外労働への割増賃金は一律で25%でしたが、2023年から60時間を超える場合は50%に引き上げられました。この影響により、中小企業も1人のドライバーを長時間労働させることが難しくなったため、ドライバー不足につながっています。
参考:厚生労働省「2023年4月1日から 月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます」
ドライバー不足や2024年問題への企業の対応策
ドライバー不足や2024年問題に対して、企業はどのような対応をしているのでしょうか。主なものを4つ紹介します。
業務内容の改善
運送業務のデジタル化を行い、業務効率化を図ることで、ドライバー不足問題に対応している企業があります。
AIを活用すれば、配車やルート計画、配送スケジュールを最適化し、無駄な走行時間と距離を削減することが可能です。また、リアルタイムで交通情報や天候情報を確認できるシステムを活用すれば、配送遅延を最小限に抑えることもできます。
労働環境の改善
物流業界は、ほかの業界に比べて賃金が低く長時間労働になりがちです。このような労働環境を改善し、ドライバーの増加につなげる企業も増えてきています。
運送企業は、給与の見直しや適切に休息がとれる体制作り、労働時間を少なくする工夫、有給休暇制度の完全消化がしやすい環境作り、休暇制度の充実などの改善を実行中です。
また、女性の労働参加率を上げてドライバーを確保するために、女性が働きやすい環境の整備も進めています。荷主に協力を得て荷積みや荷卸しの重労働を削減したり、事業所や休憩所に女性用施設を整備したりするなどの対応をしている企業もあります。
ドライバーの採用強化
企業はドライバーの採用を強化し、担い手を確保しようとしています。労働環境や待遇を改善し、働きやすい企業であることを求職者にアピールしています。
入社後、業務に必要な免許を取得できる制度を作ったり、異業種や未経験者でも働きやすいよう同乗研修を受けられるようにしているので、他業種からの転職も行いやすいです。また、効率的な運転や、積載方法向上のトレーニング機会を提供するなどして、競合他社との差別化も図っています。
共同配送や中継輸送の利用
共同配送や中継輸送を活用し、ドライバーの稼働時間を減らしつつも配送効率を高める努力もしています。
共同配送とは、複数の事業者が協力して同じ納品先へ荷物を積載し、配送する方式です。配送効率が上がり、コストを削減できます。
また、中継輸送とは、複数人のドライバーが長距離輸送を分担して配送する方式です。事業所から中継地点まで荷物を運び、中継地点から納品先へ配送します。ドライバー1人あたりの輸送距離が短縮でき、配送リードタイムを短縮することが可能です。
ドライバー不足のいま、転職市場は売り手市場
ドライバーは低賃金・長時間労働という労働環境の悪さなどから担い手が少なく、人手不足の状況にあります。
このようなドライバー不足が叫ばれる中、物流業界は売り手市場にあり、ドライバーの待遇改善に乗り出しています。未経験からの挑戦も行いやすくなっているため、ドライバーを目指される方は、「トラッカーズジョブ」を活用して転職を検討してみてはいかがでしょうか。
参考:物流業界向けAI導入・活用事例! | AI Market
参考:物流業・運送業の働き方改革とは?トラックドライバーの労働時間や運送会社への影響
参考:「物流の2024年問題」をホワイト物流思考で切り抜ける|物流基礎|MATEMA
参考:物流業務を効率化するメリット・方法・ポイントとは?
参考:迫る、物流クライシス 2024年問題といくつかの対応策
参考:迫る物流業界の「2024年問題」 慢性化するドライバー不足に政府が緊急対策を検討
参考:2024年問題とは?ポイントや対策をわかりやすく解説!
参考:物流のラストワンマイルとは?再配達がもたらす問題や課題
参考:運送業界・業種別データから見る労働環境の変化ー2024年問題を契機に変わり始める働き方ー
参考:【物流2024年問題】運送業界のM&Aについて売却相場や最新事例を紹介!
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