自動車運送事業では、法令により業務開始前に点呼を行うことが義務付けられています。
通常、点呼は対面で行うことが基本とされていますが、業務や運行の都合で対面が難しい場合には、条件を満たせばIT機器を使った点呼も認められています。
本記事では、IT点呼の概要、導入のメリットとデメリット、さらに導入の具体的な手順について詳しく解説します。
目次
IT点呼とは?
自動車運送事業では、ドライバーが業務を開始する前後に点呼を行うことが義務付けられています。これは、貨物自動車運送事業輸送安全規則にもとづいて「運行の安全を確保するため」に必要な手続きです。
この規則では、点呼は原則として対面で行うことが求められています。しかし、国土交通省の通達「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」によると、対面での点呼が困難な場合には、ITを利用した点呼が代替手段として認められています。
IT点呼は、働き方改革の一環として業務改善の代表的な施策の一つです。対面での実施が基本ですが、以下のようなIT機器を使用することで、対面と同等の効果を持つ点呼が可能となります。
- パソコン
- テレビ電話
- カメラ
- 専用の検知器
勤務状況などにより対面が困難な場合でも、IT点呼を利用すれば遠隔地からでも点呼を実施できます。
点呼についての詳細は、以下の記事もあわせてご確認ください。
関連:運行管理における点呼業務の目的とは?正しい流れや方法も解説
参考:国土交通省「点呼 ~点呼は安全輸送の要~」
参考:全日本トラック協会「貨物自動車運送事業輸送安全規則の解釈及び運用について」
遠隔点呼との違い
遠隔点呼とIT点呼は、運転者の安全確認を遠隔で行うという点で共通していますが、実施場所や機器・システムの要件、実施可能な範囲に違いがあります。
例えば、営業所の要件に関しては、遠隔点呼はどの事業所でも行うことができます。一方、IT点呼は「Gマーク認定営業所」および「一定の要件を満たす優良な営業所」に限定されています。
機器・システムの要件に関しては、IT点呼は「国土交通大臣が認定した機器」を使用するだけで済みますが、遠隔点呼には「要件を満たすカメラ・モニター」に加え、「アルコール検知器による測定結果を自動的に記録・保存できること」や「生体認証機能を有していること」など、細かい要件があります。
このように、機器やシステムの要件さえクリアすれば、どの事業所でも実施しやすい点が遠隔点呼のメリットです。
電話点呼との違い
電話点呼も、対面での点呼が難しい場合に使用される方法です。例えば、長距離トラックの運転手は、宿泊を伴う業務が多いため、営業所や車庫など決められた場所での点呼が行えない場合があります。このような場合、電話での点呼が可能です。
電話点呼では、スマートフォンや携帯電話を使用してドライバーと直接電話し、健康状態などを確認します。IT点呼や遠隔点呼のように、国土交通省が規定する専用機器を使用する必要はありません。
運行管理においてIT点呼を実施するメリット
運行管理においてIT点呼を実施することにはどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、IT点呼を実施する具体的なメリットについて解説します。
人手不足の解消が期待できる
IT点呼を導入することで、人手不足解消が期待できます。対面式の点呼では、日中や夜間に関わらず点呼を行う担当者を常に確保しなければなりません。事業所や拠点が多い場合、その場所ごとに担当者を配置する必要があり、人員の確保やコストが増大します。
一方、IT点呼を導入すれば、ドライバーが所属する事業所とは別の営業所で点呼を行うことが可能です。
例えば、日中は一つの営業所において対面で、深夜は別の営業所で点呼を実施するなど、柔軟な対応ができるようになります。
このように、すべての拠点や営業所に運行管理者を常時配置する必要がなくなる点は、IT点呼の大きなメリットと言えるでしょう。
記録の一元管理が可能
IT点呼を利用することで、記録の一元管理が可能となります。点呼には本人確認やアルコールチェックなどさまざまな項目が含まれますが、これらの確認項目に対応したデジタル機器を活用することで、効率的に管理をすることができます。
例えば、運転免許リーダーを使用すれば迅速に本人確認ができ、アルコールチェッカーと連携することで点呼とアルコールチェックを同時に行うことができます。このようにして、点呼にかかる時間を短縮することができます。
これらのデータはすべてIT点呼の機器に記録されるため、後から特定ドライバーの点呼記録を確認したい場合にも、アルコールチェックや本人確認のデータをまとめて確認することが可能です。
ヒューマンエラーの防止につながる
IT点呼を導入することで、ヒューマンエラーの防止にも大きな効果があります。従来の手書き記録や目視チェックでは、どうしても記入ミスや記入漏れ、チェック漏れが発生するリスクが避けられません。
しかし、IT点呼ではパソコンやスマートフォンといったIT機器を使用するため、点呼を実施すると同時に記録が自動的に保存されます。これにより、記入漏れやミスの発生が大幅に減少します。
さらに、IT点呼なら記録と同時にクラウド上に保存されるため、紙媒体で記録を保存している場合に発生する紛失リスクを回避することができます。このように、IT点呼はヒューマンエラーを防ぎ、記録管理の信頼性を向上させます。
また、運行業務全体の効率化を目指すならトラッカーズマネージャーの導入をぜひご検討ください。トラッカーズマネージャーは、車両やドライバー、運行にまつわる業務をまるっと一元管理できるため、運行管理者の負担を最小限に押さえることができます。トラッカーズマネージャーの詳細については、以下からご確認ください。
運行管理においてIT点呼を実施する際のデメリット
運行管理におけるIT点呼で得られるのはメリットだけではありません。ここでは、主なデメリットを2つ解説します。
導入費用が高くなりやすい
IT点呼を導入する際のデメリットの一つは、導入費用が高額になりやすい点です。IT点呼を実施するには、国土交通省が定めた専用機器を使用しなければなりません。そのため、互換性のある安価な機器を使用することは認められていません。この制約により、導入費用が高額になる場合があります。
さらに、記録の管理や保存のためにシステムを利用する場合には、月額使用料が発生します。こうした設備に対する費用が必要となるため、対面点呼と比べると費用の負担が大きくなる場合があります。
機器の操作に慣れなければならない
IT点呼に使用する機器は、国土交通省が規定するものを使用しなければならず、必ずしも使いやすいとは限りません。使用する機器は管理者や執行者だけでなく、ドライバーも利用するため、すべての従業員がスムーズに操作できるようになるまで時間がかかる可能性があります。
従業員全員がIT機器に詳しいわけではないため、研修の実施が必要になる場合もあるでしょう。
IT点呼の実施ルール
IT点呼の実施には明確なルールが設定されています。また、実施ルールはGマークを取得しているかいないかでルールが異なります。ここではGマーク取得事業者と未取得事業者に分けて、ルールを確認しましょう。
Gマーク取得事業者の場合
IT点呼を導入・実施するためには、点呼実施者の所属営業所とドライバーの所属営業所の両方がGマークを取得している必要があります。
Gマーク取得事業者の場合、「営業所間」「営業所と車庫」「車庫と車庫」の3つの範囲でIT点呼が認められています。
ただし、IT点呼は1営業日で連続する16時間以内で実施しなければならないため、複数日にわたる業務には利用できません。また、点呼者の条件は一般的な対面点呼と同じであり、一月のうち3分の1以上は運行管理者が点呼を実施する必要があります。
Gマーク未取得事業者の場合
IT点呼を実施・導入するためには通常、Gマークを取得していることが求められますが、以下の条件を満たすことで、Gマーク未取得でも実施・導入が可能です。
- 営業所開設から3年以上
- 自動車事故報告規則第2条にある事故で、過去3年間に第一当事者となる事故を起こしていない
- 点呼違反で行政処分や警告を過去3年間受けていない
- 適正化実施機関の直近の巡回指導評価規準を満たしていること
ただし、Gマーク未取得事業者の場合、IT点呼の実施範囲には制限があります。
- 営業所と当該営業所の車庫間
- 営業所車庫と当該営業所の他車庫間
そのため、IT点呼の効果を最大限に活用するためには、Gマークの取得が推奨されます。
国土交通省が認定した機器を使用する
Gマークの取得に関係なく、IT点呼を実施する際には国土交通省認定の機器を使用する必要があります。国土交通省が定める要件は次のとおりです。
- ドライバーの状況が映像越しに随時確認可能
- アルコール測定記録の自動保存
- 運行管理者がアルコール測定記録を即座に確認できるシステム
点呼の際には、ドライバーの健康状態とアルコールチェックも行います。IT点呼では対面での確認ができませんが、対面と同等の確認を行うために映像を使ってこれらを確認します。
国土交通省の公式サイトでは、「過労運転防止認定機器一覧 ITを活用した遠隔地における点呼機器」というページで、認定機器の要件や見本画像が確認できますので、ぜひご確認ください。
参考:国土交通省「過労運転防止認定機器一覧 ITを活用した遠隔地における点呼機器」
IT点呼を導入する際の具体的な手順を紹介
では、IT点呼はどのように導入すれば良いのでしょうか。ここでは、導入する際の具体的な手順を紹介します。
必要な機器を準備する
まずは、IT点呼を実施するために必要な機器を準備しましょう。以下の機器が事前に必要です。
- 点呼管理ソフトウエア
- 免許証リーダー
- アルコール検知器
- カメラが内蔵されたパソコン(カメラなしの場合は別途用意)
- スマートフォン
- マイク(未内蔵のパソコンの場合)
- プリンター
これらの機器は、国土交通省が公式ホームページで公開している「過労運転認定機器一覧 ITを活用した遠隔地における点呼機器」に準拠したものである必要があります。公式リストを確認し、適切な機器を準備しましょう。
参考:国土交通省「過労運転防止認定機器一覧 ITを活用した遠隔地における点呼機器」
管轄の運輸局に申請する
IT点呼を実施するための機器の準備が整ったら、次に管轄の運輸局に申請を行います。申請に必要な主な書類は以下の3つです。
- IT点呼に係る報告書
- Gマーク(安全性優良事業)認定証の写し
- 性能がわかるIT機器の書類またはパンフレット
「IT点呼に係る報告書」は、各運輸支局のホームページからダウンロードできます。この報告書には、車庫環境や開始予定などの必要事項を記載します。
※申請書類はIT点呼の実施予定日の10日前までに、管轄する運輸支局に提出する必要があります。期日を守って提出するようにしましょう。
運行管理におけるIT点呼は業務効率化や従業員の負担軽減に効果的
IT点呼は、業務の効率化や従業員の負担軽減に大きな効果があります。しかし、導入や実施には一定の要件を満たす必要があります。また、機器には制限があるため、通常の対面点呼と比べて導入や運営にコストがかかる場合もあるでしょう。
自社に適した点呼方法かどうかを確認し、積極的に導入を検討してみてください。
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