運送業界の即戦力「ベテランドライバー」にこそ対策を!

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事業用トラックの死亡事故「200人以下」の壁

事業用トラックによる死亡事故がなかなか減りません。 国土交通省は2017年、「事業用自動車総合安全プラン2020」の中で、事業用トラックによる交通事故死者数を200人以下、人身事故件数を12,500件以下、飲酒運転による事故件数をゼロとするよう目標を設定しました。

そんな中、直近、警視庁から発表された「交通事故統計」によると、事業用トラックによる死亡交通事故は今年9月末時点ですでに173件(軽貨物・トレーラー含む)。 過去のデータを見る限り、同プランが掲げられて以降、この目標をクリアした年はなく、2020年もこのペースでいくと制限目標の200件を超えてしまう可能性が高いといえます。 言わずもがな、トラックによる事故には実に様々な要因があります。 急に止まれない、死角ができやすいといった「車体の特性」はもちろん、時間に追われるドライバーの「過酷な労働環境」もその例といえるでしょう。

しかし昨今、これらと同じくらい憂慮しなければならいと個人的に思っているのが、「トラックドライバーの高齢化」です。 厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」によると、全産業の平均年齢が42.9歳であるのに対し、中小型トラックドライバーは45.9歳大型トラックドライバーにおいては48.6歳と、どちらも高くなっています。 私がこれまで出会った大型ドライバーの中での最高齢は72歳。主に千葉から静岡間を走っているとおっしゃっていましたが、もしかすると彼以上に高齢で長距離を走っているドライバーさんも少なくないのかもしれません。

高齢化が進むトラックドライバーの懸念点

こうした高齢の職業ドライバーのほとんどは、ドライバー歴数十年のいわゆる「ベテラン」です。 ベテラン職業ドライバーは、それまでの経験や運転技術、豊かな土地勘が買われ、人手不足の運送業界では「即戦力」として重宝されることが多いです。 しかし、ベテランドライバーだからといって全てがメリットというわけではありません。 彼らベテランドライバーには、憂慮せねばならない点が2つあります。 1つは、「過剰な自信」です。 トラックドライバーに限らず、その業界で「ベテラン」になると、「勘」というものが働くようになります。とりわけ交通状況や天候など、「不可抗力」によって仕事の流れが大きく変わる運送業界にとって、彼らの「勘」というものは非常に有用に働きます。 そこでしっかりと意識しておかなければならないのは、その「勘」というのが「慣れ」と紙一重であるということ。 「だろう運転」はその典型で、「この道はいつも人通りが少ないから今回も大丈夫だろう」や、「この場合相手が譲ってくれるだろう」など、ベテランだからこそ存在するその「リズム」や「習慣」が注意不足に繋がるシチュエーションが多くありますが、これは勘でもなんでもなく、ただの「慣れ」です。 また、高齢になると「思い込み」や「我(が)」が強くなる傾向があることを忘れてはなりません。 実際、池袋で暴走し、多くの死傷者を出した高齢者ドライバーは、クルマに欠陥はなかったと結論付けられた今においてもアクセルとブレーキの踏み間違いを否定し続けています。 そしてもう1つの懸念点は、他でもない年齢による「老化」です。 「プロドライバーだから大丈夫だ」と思われているのか、これだけ世間が「高齢者ドライバー」に対してセンシティブになっている中、「職業ドライバーの高齢化」においてはあまり指摘されませんが、やはりどれだけプロであっても、そして安全運転をしたとしても、老いによる体力的な衰えには敵いません。 前出の「事業用自動車総合安全プラン2020」でも、 「視力等が弱まることにより周囲の状況に関する情報が得られにくくなり判断に適切さを欠くようになる、反射神経が鈍くなることによってとっさの対応が遅れる等の一般的な高齢運転者の特徴」 に対しての指摘があります。

事故防止に企業ができること

ただ、これら「過剰な自信」や「老化」に懸念点があるからといって、業界の即戦力となっている高齢ドライバーに今すぐトラックを降りてもらうというのは、全く現実的ではありません。 では、自分の会社に高齢ドライバーがいる場合、企業はどうするべきなのでしょうか。 それは、高齢ドライバー1人ひとりの「パーソナリティの把握」と「健康管理と適性診断」、そして過酷な労働環境になりやすい「長距離」や、人身事故の確率が上がる「地場輸送」の回避です。 「これまで長年ドライバーとしてやってきた人だから」という信頼感は非常に大事ではありますが、上記の理由から、「人は老いると変化が生じる」という俯瞰的目線も同じくらい必要になってきます。 「事業用自動車総合安全プラン2020」にも、 「適齢診断の受診を拡大・徹底し、事業者が個々の運転者の運転特性を把握した上で、運転上の注意事項を的確かつきめ細やかに指導・監督するとともに、状況に応じ夜間・長距離運転を担当させない措置をとる等の対策を推進すべきである」 と記されており、この高齢トラックドライバーへの対策は、本格的な増加が始まる今のうちから準備しておく必要があるといえるでしょう。 車体の大きさから、事故を起こすとその規模や結果が悲惨なものになりやすいトラック。近い将来、「死亡者数200人」が限りなく「ゼロ」へと近づけられるといいですね。