「メディアリテラシー」とは
最近の講演会でよく話すテーマに「社員教育」があります。ポイ捨てやトイレ問題についてももちろんお話するんですが、これらにおいては、自社でもすでに社員に向けて気を付けるよう指導しているところが多いようです。 が、メディアの人間から見ると、それ以外に昨今特に憂慮すべきトラックドライバーの「悪マナー」があることに気付きます。 それが「メディアリテラシー」です。
「メディアリテラシー」とは本来、「テレビや新聞、ネットニュースなどが発信する情報に対し、受け手側に求められる判断能力」のことをいいます。しかし昨今では、「判断した情報を正しく発信する能力」も加えた広義な意味で使われることが多い言葉です。 メディアのカタチはこの20年で大きく変わりました。新聞やテレビなどの「マスメディア」から一方的な情報を受けるだけの時代から、「ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)」などを通じて、受け手も自らの意思や思いを発信できる時代に変化したのです。 このSNSには、FacebookやTwitter、LINE、YouTube、TikTokなどが挙げられます。
トラックドライバーのメディアリテラシー
しかし残念なことに、トラックドライバーの中には、その「メディアリテラシー」に問題のある人が目立ちます。 一例を挙げますと、一般車を「クソレジャー」と表現したり、トラックに立ち小便をするドライバーの悪行をネット上に晒したりする、トラックドライバーによる投稿です。
これだけでも問題なのですが、それをより深刻にさせているのは、ナンバープレートや社名も全て見えた「未処理」の状態で投稿されていたということ。 中には、ご丁寧にもその悪マナーのトラックドライバーが所属している企業名と電話番号まで記し、「苦情はここまで」とする投稿もあります。
元々トラックドライバーには熱く、正義感のある人が多いと、彼らを長年見続けて深く感じます。 が、その「正義」をはき違えてしまうケースが散見されているのが現状で、遮断性のある車内に長時間1人でいるという環境も手伝い、目の前で起きた悪事に対して、「この正義を共有したい」という思いが暴走し、「晒し行為」に繋がっているケースがほとんどです。
以前私が「晒し行為」に対して指摘したトラックドライバーは、こんなことを言っていました。 「世間に晒すことで世の中をよくしているし、抑止力になる。何が悪い」。 しかし、割り込み運転されたからとスマホ片手に追いかけ回すのは、果たして「正義」なのでしょうか。自分は顔や名を伏せておきながら、TPOもわきまえず相手の悪事を晒す行為は、許される行為なのでしょうか。
2020年はコロナの影響で「マスク警察」や「自粛警察」などという言葉が流行りましたが、こうした「晒し行為」も、この「○○警察」の心理と同様のものだと感じます。 無論、トラックドライバー全てがこうした晒し行為をしているわけではありません。 同じ「正義感」をもってハンドルを握っているドライバーにも、この晒し行為に疑問を呈する人は大勢います。
かつてSNSでこの問題を呈した際、 「せっかく自分たちが社会的地位を上げるべくルール守ってやっているのに、YouTubeで自分たちの給料を公開したり、会社の不満をぶちまけたり、汚い言葉を使って周囲のドライバーを口撃しているのを見るとやるせなくなる」 「数字(視聴回数)が取れればいいと思っている一部のトラックドライバーYouTuberは、動画も過激になりがち。それを観た視聴者は、トラックドライバーを誤解するのでは」 といった意見も多くありました。
自社ドライバーに取るべき対策とは
前出の「世の中のためにやっている」としたドライバーのように、これらの晒し行為をする人の多くが悪いことだと認識していないのですが、実はこれは正義どころか「マナー違反」、ひいては「名誉棄損罪」にかかり得る行為になります。
そうなれば、ドライバー個人の問題にとどまらず、会社の信用問題にもなりかねません。 ただ、だからといって所属ドライバーの晒し行為を会社が個人的に直接注意するのは難しいかもしれません。 ほとんどが匿名(アカウント名)で投稿しているので、確信的な証拠がないのももちろんですが、日本の憲法には「表現の自由」が保障されており、その投稿や注意の仕方によっては、その自由の不当な制限に当たってしまうこともあるからです。
が、こうした行為が現に広く横行していることに鑑みると、社を離れて仕事をする社員に対して、ポイ捨てやトイレ問題と同じ「教育」の1つとして、メディアリテラシーの指導は今後盛り込むべきだと強く感じます。
不特定多数の人たちが目にするSNSで、トラックドライバーがモザイクもなしに他車の悪行を投稿し、汚い表現で周囲を罵る行為は、広い視野で見ると結果的に自分の首を自分で締めていることになる。 この事実を、是非社員の方々に伝えていっていただけると、ドライバーの社会的地位の向上は少しでも早まるのではないでしょうか。